
さまざまなエンタメに触れてみませんか
小説を読むのは必要なことです。しかし、小説を読むだけでは充分とは言えません。
説以外の多様なジャンルのエンターテインメント……たとえば漫画、アニメ、映画、音楽、演劇などに触れることは大きな意味があるのです。
どうしてでしょうか。
一つには、現代のエンタメは一つのジャンルでは成り立たないということがあります。
コミカライズ、ノベライズ、アニメ化……一つのコンテンツが他のジャンルにも持ち込まれることでさらなる人気を獲得するわけです。
これを考えますと、多様なジャンルの方法論をインプットすることには大きな意味があるのだとわかってもらえますでしょうか。
各ジャンルと小説の関係についても考えてみましょうか。
もっとも身近なエンタメは漫画ではないでしょうか。
そもそもライトノベルが「活字で書いた漫画」などと表現されることもある通り、
漫画は各種エンターテインメントの中でも特にライトノベルと親和性が高いと言えます。
キャラクター性重視、テンポ重視など、物語作りの点においてよく似ているのです。
一方、絵によって動きを見せ、感情を見せる漫画に対し、あくまで文章ですべてを表現しなければいけないのが小説です。
たとえば青春・スポーツなどは絵の力で与えられない分のインパクトを他で補う工夫が必要です。
アニメやドラマ・映画もありますね。
漫画がどこまでも「止まった絵」であるのに対し、これらは「動いている絵」で、さらには音までついてきます。
ただその一方で、小説と比較すると表現できる情報量が非常に少ない(漫画と比較してもさらに少ない)のが特徴です。
そのため、これらのジャンルは画面の細かいところも含めてなるべく多くの情報を発信するように気を使わなければいけませんし、
また情報・物語を取捨選択していかなければなりません。そうした「見せ方」は小説を書くにあたっても大きく参考になるはずです。
また、長編一冊分のエピソード量がつかめない、盛り上げられないという人には映画がおすすめです。
2-3時間という決して長いとはいえない時間の中で物語をまとめ、メッセージ性や娯楽性を盛り込んでいくのは、
長編一本分という新人賞用原稿と重なる部分が大きいからです。
同じように人気のエンタメとして、音楽がありますね。
音や声のニュアンスは活字に落とし込みようがないかもしれません。しかし、歌詞における言葉選択のセンスは参考になりそうです。
少ない言葉で書き手のイメージを伝えるために、どんな言葉の使い方をしているか、と歌詞カードを見ながら考えてみるのがおすすめです。

宝塚のススメ
榎本メソッドではこれらのエンタメに加えてもう一つ、舞台演劇を見ることを強くおすすめしています。
ここまで紹介したエンタメと比べて機会が少なく、敷居が高い気がしますか?
でもそれ、逆に言えば「レアな経験だから他の人と差をつけられる」ということですよね。
もちろん、他にも理由はあります。
アドリブなど即興の面白さも含め、臨場感や緊迫感、一つの空間を演者と客が共有して盛り上がりを作っていく感覚は一度感じておいて損はありません。
特にオススメしたいのが「宝塚」です。
ポイントは、宝塚の物語全体が「トップスター(男役)を中心に、いかにその魅力をアピールするか」という大前提で作られていることです。
これは「キャラの魅力を最大限に活用する」ライトノベルの方法論と合致しています。一見の価値ありです。
また、近年の宝塚はアニメや小説、ゲームなどオタク系エンタメの原作付き作品も多くやっていますから、その辺りから入ってみるのもいいかもしれません。
小説とそのほかのジャンルにはさまざまな違いがあり、そこで描かれる物語も少なからず違います。
多様な物語に出会うことは、あなたの作品にとって大きな力になるはずですを
また、そうした作品を自分でノベライズをすると、「違い」を埋めていくことが創作力の向上につながっていく、という側面もあります。挑戦してみてはいかがでしょうか。
【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。』などがある。2019年にも新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『異中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』(秀和システム)を刊行。PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。講師としては愛知県名古屋市の専門学校日本マンガ芸術学園にて講義を行い、さらにオープン参加形式で【土曜セミナー】毎月開催中。