
憧れと感情移入(共感)
魅力的なキャラクターを作るためには、どんな要素に注目すればいいのでしょうか。
榎本メソッドでは、4つのポイントを重視します。
1:憧れ
2:感情移入(共感)
3:弱点
4:応援
ひとつひとつ見てみましょう。
「1」の憧れは、「こういう風になりたい」「こうだったらいいな」ということです。
自分にないものを持っている人は、好きになりますし、魅力的にも思いますよね。
そのキャラクターの、
・能力(頭がいい、運動神経が良い、など)
・性格(優しい、勝ち気、など)
・ポリシー(弱い人を見捨てない、約束を守る、など)
・置かれているシチュエーション(お金持ち、など)
に感じることが多いようです。
「2」の感情移入(共感)は、「その気持ち、わかる!」「こういう時はそう思うよな」ということです。
あまりにも自分と違いすぎる相手は好きになれないものです。
逆に、どこかしら似ているところがあると興味もわいてくるのですね。
特に、感情のポイントが近いと、この感情移入(共感)の要素が強くなります。
そのキャラクターはどんなことで怒り、悲しみ、楽しみ、喜びますか?
これらの点で読者とキャラクターに共通するところが多いと、「わかる!」になるわけです。
この感情移入(共感)はエンタメにおいて重視されることが多いので、
そこから転じて「読者に近い立場(年齢、職業、生活空間)の主人公がよい」とされます。
でも、本当にそうでしょうか? だって、女の子主人公のライトノベル多いですよね。
もちろん立場も大事なのですが、他の点で「近い」「わかる」ところがあれば充分なんです。

「弱点」と「応援」
「3」の弱点は、憧れと感情移入(共感)を結びつけるためのテクニックです。
だって、憧れは「遠い」からこそ、感情移入(共感)は「近い」からこその魅力ですよね。
このままだと水と油で混ざりません。そこで、サポートする要素が必要です。
すごく強い能力や気高い心を持っている相手でも、
蜥蜴が苦手だったりするとちょっと可愛げが出て「あ、ちょっとわかる」感じになりませんか?
欠点なんてなさそうな厳格な大人が、家に帰ると子どもを溺愛していたら、歩み寄れる気になりませんか?
こんなふうに、憧れと感情移入(共感)を結びつける接着剤になるのが弱点です。
また、キャラクターに弱点(弱み、と言ってもいいですね)をもたせておくと、お話を動かしていくのにも便利です。
一例として、ツンと澄ましたクールなキャラはそのままだと物語に絡んできてくれませんが、
「大切な妹がいる」ならその妹が誘拐されれば積極的に動いてくれるでしょう。
「4」の応援は、感情移入(共感)から派生するポイントです。
子供の頃(あるいは、いまでも?)、テレビの前でヒーローやヒロインを応援したことありませんか?
そう、「ぷいきゅあ、がんばえー」というやつです。あれを引き出すのが「応援」です。
大人の皆さんは流石にもう声に出すことはあまりないかもしれませんが、
物語を読んでいる時に主人公やヒロインを(架空のキャラクターとわかった上で!)
応援したくなることはきっとあるはずです。
嫌いなキャラ、好きになれないキャラ、理解できないキャラを応援したくなることはありませんよね。
「こいつの気持ち、わかる」
「ここは負けられないよな」
「この敵、ムカつく!」
「あの子のためにもここで引くな!」
こういう気持ちがあるからこそ、応援したくなるわけです。
だから、これはキャラクター単体のことではないかもしれません。
他のキャラクターとの関係やストーリーにおけるシチュエーションが深く絡んできそうです。
しかし、まずは主人公やヒロインに感情移入や共感を感じればこそ、応援したくもなるもの。
自分だったらどんな要素をもたせれば応援したくなるか、
あるいはどんな要素を持っていたら応援したくなくなるか。考えてみてください。
【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。』などがある。2019年にも新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『異中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』(秀和システム)を刊行。PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。講師としては愛知県名古屋市の専門学校日本マンガ芸術学園にて講義を行い、さらにオープン参加形式で【土曜セミナー】毎月開催中。