
舞台から生まれる物語
講師側からいくつかの設定を用意した上で、
この設定から、どんな物語が思いつくだろう。
こんな設定だったら、どういうことが起こりうるだろう、と想像してもらったのです。
例えばスマートフォン、というより手軽に持ち運べる電話が登場する前と後だとこんな違いがある……といったお話から、
・携帯電話のある世界とない世界の違い
・もし空飛ぶ自動車が実用化されたら
・どこでもドアが普及した世界はどんなものだろう
などなど、わくわくするようなお話をいくつも聞かせてもらえました。
さて、肝心の演習はどんなものだったのか、ひとつとりあげてみますと、
「 人々が毎夜見る夢の中には、実は一つの世界につながっているものがある。その世界はいわゆる剣と魔法のファンタジー世界で、怪物もいるし、王国もあり、さらに「天界」「魔界」というさらなる異世界とのつながりもある。
人々は夢の中ではその世界の住人となり、全く違う人生を送っているが、夢から覚めれば現実に戻る。
すべての人が見る夢がファンタジー世界につながるわけではなく、つながれる人もいつもいつもつながっているわけではない。しかし、中には望んで異世界とつながり、しかも現実の記憶を持ち込んだり、異世界を改変したりすることができる能力者もいる。彼らは夢から覚めても現実の記憶を持っている。能力者にはあくまで異世界の生活を楽しもうとする者もいるし、現実の知識によってこの世界を作り替えようとする者もいる。」
この世界設定から、皆さんならどんな物語を考えるでしょうか。
夢と現実の関係からお話を考えるかもしれません。
能力者のお話を考えるにしても、異世界の生活を楽しもうとする人を主人公にするかもしれないし、世界を変えようとする人を主人公にするかもしれない……
講師が言うには、お話に使えそうな要素をいろいろ潜ませてあるとのことです。

そんなお題を受けて、参加者の皆さんが作ったのは、こんなお話でした。
〇Aさん
Aさんは、世界設定のRPG的な部分に目を向けてくれました。
主人公はパーティを組んでいて、友人と夢の世界を楽しんでいた。しかし夢魔と呼ばれる敵に襲われた友人が、現実世界からも姿を消してしまう。
主人公が友人のもとを訪ねると、なんと彼は家ごと姿を消してしまっていた……というお話です。
冒頭のイベントで友人が家ごと消えてしまう、夢での出来事が現実にも影響するというのは「夢のなかだからなにが起きても大丈夫」なんて思っていたキャラクターたちをぞっとさせますよね。
すごくインパクトのある始まりです。
そこで講師が目を向けたのは物語の中盤でした。
「世界設定のRPG的な部分」として、イベントが主人公たちのもとにやってくる、というものがあります。
ひとつひとつイベントをこなしていく、というのは非常にRPGらしい話です。しかしこれではお話が間延びしてしまう、というのです。
いわれてみれば、自分でキャラクターを操作するのならまだしも、他人がイベントに対処していく姿をただ見せられるというのは退屈かもしれません。
例えば主人公は、現実の世界は平和なのに、夢では夢魔に狙われるから逃げなければいけない。そこを夢の住人が助けてくれて……みたいな話にすると、間延びを防げるそうです。
○Bさん
Bさんは「夢が一つの世界につながっている」というところに注目してくれました。
「夢として生まれた」のではなく「もともとそこにあった」という設定でお話を考えてくれたのです。
Bさんのお話では、現実の人たちと同じように、夢のなかの住人も生きています。
主人公はその夢では悪役で、善の人である友人たちとの対決が、彼にとっての葛藤になります。
ここで講師が気にしたのは「なぜ主人公は悪の立場を変えられないのだろう」ということでした。
特に理由がないのなら、主人公は「友人と戦いたくないから悪を辞めます」ができてしまいます。
夢の世界ではもともとの世界の人格が反映されてしまって変えられない。そういう役目を与えられてやめられない。主人公が悪役を辞めたくない理由がある。
などなど、理由付けは大事ですよね。
○Cさん
Cさんは主人公を現実の世界の住人ではなくファンタジー世界の住人にしてみせてくれました。
別の世界(私たちの世界)からファンタジー世界(彼らにとっては夢のなかの世界)へやってくる人たちと、
ファンタジー世界に住む悪魔・魔族・魔物たちとの戦いがお話の骨子です。
主人公である魔王は、地球からやってくる迷惑な人たちをなんとかしようとします。
悪魔・魔族・魔物たちの中にも私たちの世界からやってきた人たちはいるのですが、主人公はファンタジー世界の住人です。これは面白い、と講師は言います。
ただ話の結末をどうするか、は難しいそうです。
私たちの世界とファンタジー世界の繋がりを断ち切ってしまう、というのが一番シンプルな方法ですが、果たしてそれができるのか、できたとしてそれは面白く描けるだろうか、というのはたしかに難しそうです。
――と、こんな感じです。
どうでしょう。面白そう、やってみたいと感じる人も多いんじゃないでしょうか。
土曜セミナーは一般の方、卒業生の方、他コースの学生さん方のためにもなるように開かれていますので、興味のある方はぜひご参加ください。
※本レポートは、専門学校日本マンガ芸術学院における「土曜セミナー」の様子です。講義・演習は榎本秋のプロデュースのもと、講師:榎本海月が行ないました。
【執筆者紹介】榎本事務所(えのもとじむしょ)
作家事務所。大阪アミューズメントメディア専門学校、東放学園映画専門学校、愛知県の専門学校日本マンガ芸術学院、専門学校日本デザイナー芸術学院仙台校などの専門学校やカルチャースクールなどへの講師派遣、ハウトゥー本の制作を行い、小説の書き方やイラスト・マンガの描き方といった創作指導に力を入れている。