2018年8月:「キャラは組み合わせで」

2018年度

キャラは関係性があってこそ

キャラクターの魅力は単一で成立するだけのものではありません。
主人公とヒロインの関係があって、主人公がヒロインを助ける動機があって、
主人公とライバルの関係があって、主人公がライバルと戦う理由があって……といったキャラクター同士の関係によって、物語は成り立っていくのだと講師は言いました。

そこで今回は、あらかじめ用意された主人公やライバルの設定から、
「この主人公と関わるヒロインは、どんなキャラクターがいいだろう」
「このライバルと対立させるなら、どんな主人公がいいだろう」
と考えてもらいました。

さっそくお題と、参加者の考えた組み合わせを見ていきましょう。

<演習1>
主人公:
現代学園、青春ものの主人公。
訳アリの事情で独り暮らしをしていて、そのせいで周囲から自主的に孤立している(本当は友達や彼女、親しい人が欲しい)。
指示(命令、要請)を受けて友達を作ることになる。

この主人公に対応するヒロインを考える、というのが今回のお題です。

講師が言うには、この種の主人公とヒロインのコンビを作ろうとするときに、正反対のキャラクター性と、共通点を用意してあげるというのが一種のパターンとしてあるそうです。
例えば委員長キャラと不良キャラなら、
学校のルールを守る委員長と学校のルールを破る不良、という正反対のキャラクター性と、
学校のルールを守る委員長と自分のルールを守る不良(両方ともルールを守る)、という共通点を用意してあげるのが良いとのこと。
正反対だから対立して、同じところがあるから分かりあえる、それが物語になるのです。

今回はあまりそういったキャラクターは多くなかったみたいです。今後、この考え方を役立てられるといいですね。

〇Aさん
Aさんは「主人公はスパイとして学校に通っていて、そのために孤立しているのだ」という設定を考えてくれました。
対するヒロインは普通の女の子。正反対のキャラクターです。
ただしヒロインには「生まれたときから大家族、大世帯で暮らしているせいで他人の変化には敏感」という特徴があります。

ヒロインのキャラクターが見えづらくて、そこがちょっともったいない、と講師は話しました。
講師は、実はこのふたりには何か近いところがあるんじゃないだろうか、と睨みました。
そこを掘り下げることで、前述の共通点を見つけられるかもしれない、ということですね。

〇Bさん
Bさんは、Aさんとは逆に主人公とヒロインを似たキャラクターにしました。
病を持った主人公と、見た目はポジティブだけど中身はネガティブというヒロインを組み合わせです。
主人公は、病のために孤立しているわけですね。

講師が言うには、これは作者の中から切り出されたキャラクターではないかとのこと。
自分の特徴や性格から一部をピックアップして、それをキャラクターにするというやり方ですね。
同じ人物から生まれたキャラクターが似通ってしまうのは仕方がないことですが、そこで違いを設けてやることが大事なのだと講師は話しました。

〇Cさん
Cさんは、ヒロインを主人公のお姉さんにしました。このお姉さんは、学校の教師です。

ここで講師が指摘したのは、主人公とヒロインの立場関係です。
このお姉さんは、このままではヒロインのポジションにいられないというのです。
上下関係がはっきりしすぎているせいでふたりは対等な立場にはなれない、と。
なにかしらの秘密や問題があって、彼女の立場が主人公と対等なところまで下がってこないといけないのだそうです。
なるほど、と思わされます。
たしかにいろいろな物語で主人公が高嶺の花だった女の子と仲良くなるとき、彼女の問題や弱点や秘密が見つかってしまって……という展開をよく見ます。これもそれと同じなのでしょう。

<演習2>
ライバル:
異世界ファンタジー、冒険もののライバル。
主人公と同じ師匠について〇〇を学んだ兄弟子だが、師匠を殺して姿をくらました。
ライバルは「勝てばよい」と考えるタイプのキャラクター。
主人公は何としてもライバルを見つけ出し、これを倒さねばならない。

こちらは、主人公を考えるお題です。

こちらでは「ライバルが師匠を殺したのは、師匠の側に問題があったから」という設定が多く見られました。
物語によっては、ライバルを善人にしてしまうのがいいこととは限らないそうですよ。

〇Dさん
Dさんの考えた設定は「ライバルが師匠を殺した理由は、師匠が悪人で、ライバルの親を殺したから」というものです。主人公の親も師匠に殺されたかもしれないとのこと。

講師が気にしたのは、このお話の結末をどうするか、でした。
主人公がライバルを殺さなかった場合は「なるほど師匠が悪人だったのかよかった」で拍子抜けな終わりを迎えてしまいます。逆にライバルを殺してしまうと救いがありません。
すっきりとお話を終わらせるなら、と講師が提案したのは「作中最大の悪である師匠に、主人公たちに倒されるため再登場してもらう」という展開でした。
ファンタジックな力で蘇ってもらったり、死んだと見せかけて実は生きていたり、そのあたりはやりようがありそうです。

○Eさん
Eさんは、主人公とライバルに異なるポリシーを用意しました。
主人公は師匠の教えに忠実で、逆にライバルは自分のやり方を貫くキャラクターです。
この「自分のやり方を貫く」というライバルのキャラクター性がライバルが師匠を殺す理由にも関係している、というところも良いと講師は言いました。

一方でこの「オリジナルを模索するのがライバルである」というところにちょっと気をつけなければいけないそうで。
王道な話であれば、オリジナリティ・オンリーワンを獲得するのは主人公です。そのほうが格好良く見える、という価値観がありますし、オリジナルのトリッキーな戦い方をした方が盛り上がりますからね。
そこで、主人公側を魅力的に見せる必要がある、というわけなのです。

片方のキャラクターに大まかな設定が用意されていた今回の演習、
そこに細かな設定(主人公はなぜ孤立しているのか、ライバルはなぜ師匠を殺したのかなどなど)を加えることでこうもバラエティ豊かなアイデアが出てくるものかと驚かされました。
やはり参加者が多いと、いろいろな考えに触れられて楽しいですね。

土曜セミナーは一般の方、卒業生の方、他コースの学生さん方のためにもなるように開かれていますので、興味のある方はぜひご参加ください。

※本レポートは、専門学校日本マンガ芸術学院における「土曜セミナー」の様子です。講義・演習は榎本秋のプロデュースのもと、講師:榎本海月が行ないました。

【執筆者紹介】榎本事務所(えのもとじむしょ)
作家事務所。大阪アミューズメントメディア専門学校、東放学園映画専門学校、愛知県の専門学校日本マンガ芸術学院、専門学校日本デザイナー芸術学院仙台校などの専門学校やカルチャースクールなどへの講師派遣、ハウトゥー本の制作を行い、小説の書き方やイラスト・マンガの描き方といった創作指導に力を入れている。

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