2018年6月:「イラストから物語を読む」

2018年度

絵から刺激を

「美術館や博物館へ行こう」というお話は、普段の授業でもちらほらされるものです。

インターネットや本によって知識を得る、ということはできるものの、それは他人の意見になりがちだ、と講師は言います。
自分が感じたこと、考えたこと、得たことというのもお話を作るのには大切である、と。

ニュースを見て自分なりに考えていく、というのも選択肢としてはありだけれど、それは情報量が多いので大変。
ということで、情報量の少ないものに触れることを、講師はお勧めしました。
例えば旧跡を訪ねてみたり、自然の景色を見に行ったり。

そういった選択肢のひとつに「美術館へ行く」というものがあるのです。
世界の作品を見て、そこからあれこれと感じ取ってみようよ、と。
ある種のものは知識なしに楽しむことが難しかったりします。けれど一方で、頭を空っぽにして作品を見たときにそこからなにを見出せたもの、というのもお話づくりに役立てられるものでしょう。

今回の演習もその「作品から物語を見出す練習」の一つというわけですね。

参加者の皆さんには、講師の用意したイラストからストーリーやキャラクター(こんなお話がありそうだ、このキャラクターにはこんな過去がありそうだ、といったこと)を考えてもらいました。

同じ絵でも見えるものは違って……

さっそく、皆さんがどんなところに注目したのか、ご紹介させてもらいましょう。

イラストのうち1枚は、水中を少女が漂っているようなイラストでした。
また奥には巨大な水車や井戸、石造りの建造物があるようです。
井戸の柱にはウナギのような細長い生き物が絡みついています。

そこから、参加者がたには物語を考えてもらいました。

〇Aさん
Aさんは、どうして少女が水の中にいるのかを考えました。
少女は生贄として捧げられ、水の中を沈んでいくのだ、と。

講師は、正統で分かりやすい解釈だ、と評価しました。

このあたりの「なぜ水の中にいるのか」というところは、いろいろなパターンが出てきました。
例えば、海に身投げをしたのだ、と考えた方もいました。

〇Bさん
Bさんは、この少女が海の中に住んでいるのだとしました。
街の中の魚などと生活をしているのだ、と。

講師が気にしたのは、その設定をどうお話にするか、でした。
そのうえで講師が提案したのは、例えばこの街で何か不思議なことが起きていないか、少女に仲間はいないものか、と考えていくことでした。
物語を作っていくうえで、とっかかりは欲しいものですよね。

〇Cさん
Cさんは、少女を海の中の都市で暮らすヒロインとしたうえで、
自殺をしようとした主人公が都市へやってきてしまうお話を考えてくれました。

ただ講師は、お話の中のエピソードに気になるところを見つけました。
主人公が海の中の都市を観光地化して盛り上げてやろうと考えるのですが、
そのために街に迷惑をかけてしまう、というエピソードがありました。
こういう時、結構な物語では「これはよくない」という指摘が誰かキャラクターから入ることが多いのですが、
この話にはこれがありませんでした。

読者の基本的な考え方として、しくじった人間にはある程度の罰があった方がすっきりする、というものがあるそうです。
どうしようもない問題ならいいけれど、ちょっと考えればわかるような問題を起こしたキャラクターには、それなりに痛い目にあってもらった方が良いそうです。

1つのイラストからでも複数のアイデアが出てくるものですね。

セミナーではこの他に4枚のイラストが配られて、それぞれにあわせて設けられたお題に取り組んでもらいました。
興味のある方、今後もセミナーの演習では様々なお話の作り方を紹介していくみたいですから、気軽に参加をしてみてください。

土曜セミナーは一般の方、卒業生の方、他コースの学生さん方のためにもなるように開かれていますので、興味のある方はぜひご参加ください。

※本レポートは、専門学校日本マンガ芸術学院における「土曜セミナー」の様子です。講義・演習は榎本秋のプロデュースのもと、講師:榎本海月が行ないました。

【執筆者紹介】榎本事務所(えのもとじむしょ)
作家事務所。大阪アミューズメントメディア専門学校、東放学園映画専門学校、愛知県の専門学校日本マンガ芸術学院、専門学校日本デザイナー芸術学院仙台校などの専門学校やカルチャースクールなどへの講師派遣、ハウトゥー本の制作を行い、小説の書き方やイラスト・マンガの描き方といった創作指導に力を入れている。

タイトルとURLをコピーしました