
ネタ出しは大変だから……
前回に引き続き、お話をたくさん考えるための演習です。
アイデアをお話という形でアウトプットする能力、というものは数をこなすことで成長します。
数をこなさすことで「ああいうパターンがある」「あのパターンが使える」となるわけですが、
そのためのネタとなると、なかなかないものです。
そこでカードを利用してみよう、というのが今回の演習内容でした。
カードを引いて、そこに書かれた要素(タロットのように意味のある言葉、熟語や動詞などが描かれています)をもとにお話やキャラクターを考えてもらったのです。
それは例えば、
・事件のきっかけ
・主人公の動機
・味方、仲間、手助け、ヒロイン
・敵や障害
・そしてどうなったか
という五つの項目に対してそれぞれカードに書かれた単語をあてはめて、そこから物語を想像する、といったやり方です。
思いついたキャラそれぞれ
さて。これで出来上がったお話・キャラクターをいくつか紹介いたしましょう。
〇Aさん
作曲家になりたい主人公が障害を乗り越えて成功する話、を考えてくれました。
主人公の動機として「受け入れる」の逆位置が出てきたので(タロットのように正位置と逆位置があって、逆位置の場合意味が反転するのです)、
この人は主人公を「平凡な人生を送るのが嫌」というキャラクターにして見せました。
しかし敵や障害として「侵す」の正位置がやってきたことで、主人公に「俺は間違っているのではないか」という気持ちが入ってくる。
この要素の使われ方が面白い、と講師が褒めていました。
たしかに動機「受け入れるの逆」と障害「侵す」からこれを思いつくのは面白いですね。
ただ、ここから先に講師は引っかかったようです。
主人公は「俺は間違っているのでは」という気持ちを「いや、俺は特別だ!」と跳ねのけてしまいます。
「自分は特別ではないかもしれない」という不安は、結構に共感できるものなのですが、
それをばっさり割り切ってしまうのは共感しづらい……
例えば悩みながらも結果を出す。
平凡かもしれないけれど、いい結果を出せたらいいじゃないか、とする。
などなど、共感できる展開作りが大事なのだそうです。
〇Bさん
演習には、カードからキャラクターを考えてもらう、ということもありました。
この人が考えてくれたのは、強大なラスボスキャラクターです。
まずこのキャラクターが生きている世界について。
民主主義が進みすぎた結果、人々が「そうしよう」と言ったらそうなってしまう、
「あいつは悪だ」という話が、そのままその人を悪だとしてリンチにしてしまう、そんな世界です。
そしてこのキャラクターは、噂を流すのが得意な男です。
自分の思い通りに周りの印象を操作してしまいます。
彼は、周りを自分の信者だらけにしてこの国のトップになろうとしています。
また自分が邪魔だと思った相手は必ず殺してしまいます。
これだけで「こいつは強い」と思えるでしょう。
良くできたラスボスです。
良くできたラスボスですから、
講師はここでさらに一歩踏み込んだアドバイスをしました。
それが「彼はどうしてこういうキャラクターになったのか」です。
彼は純粋な悪だ、として、どうして彼のような人間が生まれたのだろう。
純粋な悪である彼は、どうしてこの国のトップをとろうとしているのだろう、と。
別に、同情されるような理由でなくてもいいそうです。
たしかに理由が彼の生きた環境から見えたり、彼の動機が分かったほうが面白いかもしれません。
この形式でお話やキャラクターを作ると、基本、物語としての面白さよりは、
「どうこの要素を消化しよう」
「どうノルマを達成しよう」
ということを考えることになりやすいそうです。
けれど、それはしょうがないし、悪いことではないのだ、と講師は言います。
このやり方のいいことは、とにかくお話が作れることだからです。
ただ「お話を考える」というだけでは作れない人が、とりあえず形にできる、ということが大事なのです。
それに、ここからどうエンタメ的に面白くするか、を考えるのも訓練になります。
自分なりのカードを作って物語を作る、というのも面白そうですね。
土曜セミナーは一般の方、卒業生の方、他コースの学生さん方のためにもなるように開かれていますので、興味のある方はぜひご参加ください。
※本レポートは、専門学校日本マンガ芸術学院における「土曜セミナー」の様子です。講義・演習は榎本秋のプロデュースのもと、講師:榎本海月が行ないました。
【執筆者紹介】榎本事務所(えのもとじむしょ)
作家事務所。大阪アミューズメントメディア専門学校、東放学園映画専門学校、愛知県の専門学校日本マンガ芸術学院、専門学校日本デザイナー芸術学院仙台校などの専門学校やカルチャースクールなどへの講師派遣、ハウトゥー本の制作を行い、小説の書き方やイラスト・マンガの描き方といった創作指導に力を入れている。