「どこでもないどこか」はさけたい
多種多様なエンタメが世に溢れる今の時代、差別化って大事だよね、というお話から、今回の講義は始まりました。
人の目に留まるかどうか、の一因として、「他とどこがが違うか」が挙げられる、という話です。
異世界を舞台にする良さは「ここではないどこか」へ読者を連れて行ってくれることですが、
それが「どこでもないどこか」になってしまうのはおすすめできません。
具体性がないとふわふわしてしまって物語に説得力が生まれないからです。
特に舞台についてあまり考えること・調べることをせず「ゲームっぽい異世界のお話」を作ってしまうと、そうして楽に書いたなりの完成度しか得られないのではないか、と講師は警鐘を鳴らします。
だから「物語にリアリティを与える特定の場所」を考えよう。ではみんなにとって一番身近な舞台はどこか。それは地元だ。
ということで、今回のテーマなのです。
地域差、地方ごとの違いというものはこの情報化社会の成立によって消えたのだ、と考える人は多いでしょうが、講師曰くそういうわけでもないようです。
仮に情報を共有する媒体が増えても、地域ごとの景色が同じものに近づいて行っているように見えても、決して違いというものは消えていないのだと言います。
分かりやすい例としては、イベントやライブが挙げられました。
確かにイベントが行われるところ、行われないところ、行われるけど頻度が少ないところ、といった具合に地域によって差が出るものです。
また、例えば同じ東京都のなかでも地域によってずいぶんと違いが見られるものです。人が多く慌しいところもあれば、畑のあるのんびりとした場所もあるのです。
そうした違いを知ること、感じることが、リアリティのある世界を生みだす力になるというわけですね。
一方で地域が違っても変わらない、ということもあるものです。
講師が挙げたのは「将来に対する不安」でした。街の将来に不安を持っているのは全国共通。多くの人が共感できる。
そしてこれを先の「地域差」と組み合わせて使うことで、差別化を行うことができるわけです。
石炭鉱山の閉鎖によって街が潰れてしまう、ということがあります。
鉱山を中心に発展してきた街が、温暖化対策としてCO2の排出を押さえよう、という時代の流れに負けてしまうわけです。
この事情自体は「鉱山を中心に発展した街」固有のものですが「この街はこれから大丈夫なのだろうか」という人々の気持ちには共感ができるものです。
地域のディープな事情へ
ではどうやって地域のことを調べるか、というお話を。
願わくば取材。記念館や歴史館、役所に聞いてほしい、とのこと。
そういった場所にボランティアで来ているおじいさん、おばあさんにはおしゃべりが大好きだったり、
若い子がそういう話に興味を持ってくれることを嬉しがる方が多いなのだと言います。
ただ、なかなか度胸が出ない、という人も多いでしょうということで、講師は次ぐ選択肢として「図書館」を挙げました。
全国的に頒布された本以外に、図書館にはその地域の知識・情報が蓄えられています。実際、鶴舞図書館(名古屋市にある公共図書館)には名古屋に関する書籍のスペースがかなり大きくとられています。
同様に各地の図書館には地元の情報が集まっているので、それをうまく活用してほしい、というわけですね。
最後に、講師の「東海地方の面白い話」を紹介させていただきます。
曰く「岐阜、特に飛騨は面白い」ということで、そこから2つほど。
「位山ピラミッド説」
そもそもに「日本の各地に古代人が作ったピラミッドがあるのだ」「ピラミッドの上に土やら何やらが被さって山になったのだ」という考えがありまして。位山がそのひとつだ、と信じている人がいる、というのがこの話。
位山の周りでは不思議なことが起こる」という話も相まって、この山はかなりミステリアスな存在として見られています。
突拍子もない、と思われる方もいらっしゃるでしょうし、実際かなりぶっ飛んだ考えではありますが、さて面白くないかと訊かれたら……面白いですよね。
「帰雲城の埋蔵金」
徳川埋蔵金をはじめ、埋蔵金の伝説というのは各地にあります。
そのひとつが帰雲城の埋蔵金です。
飛騨の大名・内ヶ島。この一族はいくつか金山を所有していて、その最後の当主はかなりの金を貯めこんでいたのだ、という話です。
ところが帰雲城は当主ともども山の土砂崩れに巻きこまれて消えてしまいました。
こうして「もしかしたら埋蔵金があるかもしれない」とロマンを感じさせる状況が生まれたわけです。
どうでしょう。ワクワクしましたか?
自分の街にもそういう話があったなら……と思った方は、ぜひ図書館へ足を運んでみてください。思わぬ発見があるかもしれませんよ。
土曜セミナーは一般の方、卒業生の方、他コースの学生さん方のためにもなるように開かれていますので、興味のある方はぜひご参加ください。
※本レポートは、専門学校日本マンガ芸術学院における「土曜セミナー」の様子です。講義・演習は榎本秋のプロデュースのもと、講師:榎本海月が行ないました。
【執筆者紹介】榎本事務所(えのもとじむしょ)
作家事務所。大阪アミューズメントメディア専門学校、東放学園映画専門学校、愛知県の専門学校日本マンガ芸術学院、専門学校日本デザイナー芸術学院仙台校などの専門学校やカルチャースクールなどへの講師派遣、ハウトゥー本の制作を行い、小説の書き方やイラスト・マンガの描き方といった創作指導に力を入れている。