2017年10月:「キャラクターを掘り下げる」

2017年度

キャラクターの気持ちがわからない!

プロット(お話の設計のようなもの)を作って「いざ執筆を」と思っても、なんだか書けない、となってしまうことがあります。
その原因のひとつが「自分のキャラクターがどう動くか分からないこと」。
キャラクターの設定をがっつり考えたはずなのに、実は必要な情報が抜けていた、なんてことは珍しくないのです……。

ということで、今回の演習では「どういう掘り下げ方をすると、キャラクターの行動をイメージできるだろうか」に重点を置いた課題に取り組んでもらいました。

参加者の皆さんに考えてもらったのは、キャラクターの目的やその理由、動機についてです。
どうしてそのキャラクターたちは冒険に出る気になったのでしょうか?
ただ、いきなり「キャラクターをつくれ」というのは大変ですから、講師がいくつか設定を用意しました。

例えば、単に「キャラクターの動機はなにか」と聞かれるより、
「高校生がアルバイトを始める動機はなにか」と聞かれた方が答えやすくなりますよね。
アルバイトをすることでお金を貰うことが目的だとしたら、
なにかほしいものがあるんじゃないか、遠くへ遊びに行きたいのだ、
そうしないと生きていくのが厳しいのだ等々、理由を思いつくはずです。

では、下の設定に対してなら、どんな理由を持ったキャラクターを思いつくでしょうか。
1.特別な能力を持って生まれた主人公。
2.過去にトラウマがあり、能力を使いこなせない。
3.戦わなければいけない理由がある(それは物語開始前からあるのでも、展開の中で得るのでも良い)。

やってみたらどうなった?

実際にこのお題に取り組んでもらったところ、こんなキャラクターが出てきました。

キャラクターA:
強い力を持っていて、過去にそれを振るって人に迷惑をかけ、責められた。それがトラウマになっている。
この世界の人間には戦う義務があるので、戦わなければいけない。

講師の評価は
「この世界の人間に戦う義務がある、という設定を活かすために『戦わないとどうなるか』を考えるとよいでしょう」
というものでした。
それを決めることで、よりはっきりとキャラクターの戦う理由が見えてきます
(「人としての権利が奪われる」なら「それを保持したい」、「もっと痛い目に遭う」なら「痛い思いをしたくない」といった具合に)。

キャラクターB:
強大な破壊の力を持っている。ただし使うととても痛い思いをする。
性格は一言で言うと小物。自己中心的で、痛い思いをする力なんて使いたくない。
しかし病気の妹を救うためにお金がいるので、力を使ってお金を稼ぐことに。
そうして飛びこんだ非日常の世界で少女と出会い、やがて彼女のことを知って助けたいと思うようになる。

講師の評価は
「綺麗にまとまっています。しかしこのキャラクターでうまくお話を作るためには読者が少女を好きになる必要があります。読者の好きな彼女を助けようとすることで、読者が主人公を好きになれるのではないでしょうか」
でした。

キャラクターC:
パイを作り出す能力を持つ。この力で作られたパイを化け物にぶつけると、化け物を浄化できる。
しかしこのキャラクターは自信を失っている。その理由は過去、自分同様にパイを投げてくる化け物と出会い、それを当てられたため――ではなく、当たったそれを嘗めてみたら滅茶苦茶美味しかったから。
ところがこのキャラクターにしか倒せない化け物が現れる。その化け物が生み出すパイを食らうと、人が汚染されてしまうため、戦うしかない。

講師の評価は
「トラウマを抱えた理由が良いですね。おかしなことを真面目にやるのは面白いことです。ただし、これをやるならツッコミ役のヒロインや相棒が欲しいですね」
でした。

なかなかバリエーション豊かなキャラクターたちができたものです。

次いで、二つ目の課題では今自分の考えているキャラクター、書いている長編の主人公について改めて考えてもらいました。
講師が用意したキャラクターへの、例えば「血液型は何型?」「他人からは何型に見える?」といった40の質問に答えてもらったのです。
これを通して、自分のキャラクターがどういう人間なのかを確認してみようというわけです。
参加者のなかには、やっぱり答えに悩んでしまう方もいました。
それでも考えて答えを出していく姿を見るに、自分のキャラクターを見つめなおすいい機会になったのではないでしょうか。

土曜セミナーは一般の方、卒業生の方、他コースの学生さん方のためにもなるように開かれていますので、興味のある方はぜひご参加ください。

※本レポートは、専門学校日本マンガ芸術学院における「土曜セミナー」の様子です。講義・演習は榎本秋のプロデュースのもと、講師:榎本海月が行ないました。

【執筆者紹介】榎本事務所(えのもとじむしょ)
作家事務所。大阪アミューズメントメディア専門学校、東放学園映画専門学校、愛知県の専門学校日本マンガ芸術学院、専門学校日本デザイナー芸術学院仙台校などの専門学校やカルチャースクールなどへの講師派遣、ハウトゥー本の制作を行い、小説の書き方やイラスト・マンガの描き方といった創作指導に力を入れている。

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