
自分の中だけからキャラは作れない
この日のテーマは、
キャラクターに深みを与えるためには……、というお話でした。
ひとりの人間の頭だけで考えられるキャラクターというものは、
時に不自然になってしまったり、あるいは細部までしっかり作りこめなかったりしがちです。
講師は「中二病」を例に挙げておられました。
たしかにあれは、戦う姿は格好良くても、人間としての魅力を欠いていることが多いような気がしますね。
それを補うのにおすすめなのが「歴史」。
長い時間をかけてつくられた歴史のなかには、面白いキャラクター、魅力的なキャラクター、参考になるキャラクターがごろごろいる、というのです。
キャラに生かすうえで特におすすめなのは、
・戦国時代の武将
・近代日本の文豪
・昭和の政治家
・スポーツ史
とのこと。
講義ではまず、理想の上司的存在、器の大きなキャラクターのモデルとして
第64・65代内閣総理大臣「田中角栄」が紹介されました。
彼がどのようにして人の心を掌握したのか、という話を聞くと、
人がどんな人間についていきたいと思うのか、
そして逆にどんな人間にはついていきたくないのかが見えてきます。
お金を使う時、部下がなにかを言おうとした時、部下が挑戦をする時……上司がどんな振る舞いをするのかで、その印象はがらりと変わるものなんですね。
他にも近代日本の文豪からは「太宰治」の人生とキャラクター性が取り上げられました。
お金持ちの家に生まれ、違法活動に手を染めた彼がどういう経緯で小説家に至ったのか。
また芥川賞が欲しいあまり、選考委員をやっていた師匠に懇願する手紙を送ったエピソードなどは、本当に面白かったです。
三英傑のイメージと実態
最後にやってきた話題は「三英傑」
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と言えば「ホトトギス」の歌が有名です。
鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス
鳴かぬなら 鳴かせてみ(せ)よう ホトトギス
鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス
これは、当人たちが詠ったものではないですが、
彼ら三人の性格をうまく捉えたもの、として世に浸透していました。
しかし、実際に彼らのキャラクターはこういうものだったのか――というと、どうやら最近は「そうじゃないんじゃないか」と言われているようで。
どうも史実をもとに、シンプルなキャラクターに改変されてしまったんじゃないか、というのです。
織田信長は多くの裏切り者を粛正したから残酷に。
豊臣秀吉は農民から成り上がったことで知恵者に。
徳川家康は最後に天下を手にしたから我慢の人に。
それぞれなってしまったのではないか、というお話。
実際には、それだけの人たちではなかったそうです。
織田信長には身内への情に厚いところがあって。
豊臣秀吉には若いころから残酷な一面があって。
徳川家康に至っては、我慢はしたけれどずっと天下を狙っていたというのは違うのでは? という話もあって。
彼らの人物像を追っていくと、私たちの知らなかった人間的な深みが見えてきました。
物語をエンタメとして描くうえで、キャラクターがシンプルということは悪いことではないそうです。
それでも、それが人間的なキャラクターであることは、大事なんですね。
今回の講義に参加してくださった方々は、これからどんなキャラクターを描いていくのでしょうか。
土曜セミナーは一般の方、卒業生の方、他コースの学生さん方のためにもなるように開かれていますので、興味のある方はぜひご参加ください。
※本レポートは、専門学校日本マンガ芸術学院における「土曜セミナー」の様子です。講義・演習は榎本秋のプロデュースのもと、講師:榎本海月が行ないました。
【執筆者紹介】榎本事務所(えのもとじむしょ)
作家事務所。大阪アミューズメントメディア専門学校、東放学園映画専門学校、愛知県の専門学校日本マンガ芸術学院、専門学校日本デザイナー芸術学院仙台校などの専門学校やカルチャースクールなどへの講師派遣、ハウトゥー本の制作を行い、小説の書き方やイラスト・マンガの描き方といった創作指導に力を入れている。